第4回 障害のある人もない人も共生する社会づくり条例(仮称) 協議関連意見書 2019年11月14日 及川 智 1.第3回検討会に関する補足意見 障害を理由とする差別の禁止についての議論に関して 「障害を理由とする差別の禁止」についての議論の大前提として、どんなことが不当な差別的取扱いであり、合理的配慮の不提供なのかを明らかにし、共通の尺度を持つことが必要である。それが現在検討している条例の最も重要な役割のひとつである。  前回の議論では、包括的な規定か生活場面ごとの規定かなどの他に、性別や尊厳について言及があった。 私は、生活場面ごとの規定を設けるべきという立場だが、大きく3つの理由からだ。ひとつは、繰り返しになるが尺度を示すために不可欠であるということ。前回の意見書で示したとおり、障害があると、障害がない人が経験しない嫌な経験をすることがあるが、あれらが差別であると認識している県民がどれだけいるだろうか。障害ゆえに「しかたない」と日々諦めさせられることは少なくない。たとえ“嫌だ、差別だ”と訴えても相手にされなくなった時に困るのは訴えた側である。 支援が受けられなくなる可能性があるからだ。生活場面ごとの規定は、県民に、どんなことが差別かということを知らせ、特に障害のある県民に対しては訴えてもいいのだと啓発するためにも不可欠である。 次に、包括規定の場合、差別についての議論がとても抽象化してしまうおそれがあるということだ。現在がまさにそういう状況だと言えるかもしれない。差別解消の基本は「他の者(非障害者:便宜的に使用)との平等」である。これを実現するための仕組み作りである。生活場面ごとに何が実現されなければならないのかを明確にしておくべきだと考える。 もう一つはガイドラインとの関係だ。県は多くをガイドラインへ委任することを想定している。当然ガイドラインは条例に基づいて策定されるものであり、条例に沿ったものになる。議論になっているガイドラインにおける生活分野の例示が何を根拠に選定され、書き込まれるのか。これが不明であり、行政のみで策定されるガイドラインに委任されることに強い懸念がある。条例に生活分野ごとの規定をもうけ、その規定分野ごとの具体的事例や対応例をガイドラインに示すべきである。 合理的配慮の提供についての議論に関して @「合理的配慮」と「配慮」 前回の検討会で、合理的配慮を義務とするか、努力義務とするか、対象は誰にするかを議論した。その際に、「合理的配慮」「配慮」「環境整備」が混同して状態で議論がされていたように感じたので改めて整理したい。 合理的配慮の語は、権利条約の英語“Reasonable accommodation”の訳であるが、Accommodationが配慮と訳されたことで、だいぶ情緒的な語感を持つ言葉になってしまった。 元の意味は「合理的な調整、便宜をはかること」である。差別的な状況を平等にするための「必要なてだて」を意味する。障害者本人(やその支援者など)の意思表明によって、社会的障壁を除去して、実質的な平等を確保するために個別具体的に調整することである。それを行わなければ、他の人と同じように参加したり、サービスなどを利用したりできない場合に提供されるべき「必要なてだて」であって、そのときの状況や場面、障害に応じてさまざまものが考えられる。 一方、日本語の「配慮」という言葉は、もともと相手を慮る、思いやるという意味である。英語 の”accommodation”が「配慮」と訳されているため、「思いやり」「心配り」と混同されやす いが、上記のとおり、「合理的配慮」は「心配り」ではなく「具体的な調整」である。心の問題で はなく、平等のための具体的な行動や現実的な工夫なのである。したがって、「お互い配慮し 合いましょう」というような言葉で表されるものとは全く異なる。 ※もちろん、社会の一員としてお互いに配慮し合うことは大切だが、それは法律や条例で規定するようなことではない。 A「合理的配慮」と「環境整備(事前的改善措置)」 障害者差別解消法では、「合理的配慮」とは別に「環境整備(事前的改善措置)」について規定している。 「環境整備(事前的改善措置)」は、不特定多数の障害者に対してあらかじめ用意しておくことである。建物のバリアフリーや、意思疎通支援制度や介助サービスの整備などが挙げられる。現在多くの商業施設であらかじめ段差を解消して、多目的トイレが設置されている。また、様々な障害のある人が観ることができるように、最初から日本語字幕や音声解説のついた映画もつくられている。これらは合理的配慮ではなく、環境整備にあたる。障害者差別解消法のガイドラインでは、障害者に接する可能性のある職員への事前の研修なども環境整備に含んでいる。   十分に環境整備が行われていれば、わざわざ個別具体的な合理的配慮がなくてもある程度 平等が確保される。けれども、全ての人をあらかじめ想定して準備をしておくことができない ので、障害や状況によっては社会的障壁が残ってしまう。その場面に応じて現場で個別に対 応するのが「合理的配慮」である。なお、誰かのための「合理的配慮」が結果的に広く他の人 にも利用できる「環境整備」になる場合もある。     B「合理的配慮」の「過重な負担」の考え方 過重な負担については、差別解消法のガイドラインで以下のように考慮すべき点が挙げられている。具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断し、障害者にその理由を説明しなければならない。 ・事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か) ・実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) ・費用・負担の程度 ・事務・事業規模 ・財政・財務状況 なお、これらの要素によって、「過重な負担」とみなされた場合は、合理的配慮の提供義務はないが、社会的障壁は依然として存在し、差別的な状況は維持されている。技術の進歩や財務状況の改善等によって社会的障壁が除去できる段階になれば、速やかにそれを行う必要がある。 法律では民間事業者が努力義務となっているが、公共性の高い事業において社会的障壁は放置してはならない。過重な負担のない限り、合理的配慮は義務とされるべきではないか。 C合理的配慮の具体例 前回の検討会では、車いす利用者のための段差解消の例があったが、他にも場面によってさまざまな合理的配慮が考えられる。 [医療] ・待合室での電光掲示板の設置や、直接の声かけ ・待てない・落ち着かない等の特性がある人には、診察順を繰り上げる、落ち着いて待てるスペースを確保する [商品・サービス提供] ・ファックスやメール等でも問い合わせを対応可能とすること ・自筆サインができない人には、複数の職員による確認等の代替手段を提供すること [労働] ・絵・写真等も用いて指示内容を分かりやすく示すこと ・勤務時間、休憩時間、勤務形態等を柔軟にしたり、職務内容を工夫することなど [教育] ・障害の特性に応じた情報伝達方法を用いたり、教材(点字や音声、拡大文字の資料など)を用意したりすること ・図や写真を用いて、学習の予定や進め方を分かりやすい方法で知らせることなど [建物・公共交通] ・施設の案内表示について点字、拡大文字、音声等の配慮を行うこと ・館内放送が聞こえない人のために、液晶掲示板で案内すること [住宅] ・契約の際には手話や筆記等、障害特性に配慮したコミュニケーション方法をとること ・住宅の契約に信頼できる第三者が立ち会うことを承諾すること [情報・コミュニケーション] ・災害の緊急情報を音声、サイレン、ビラ、メール、掲示板等の多様な方法で提供すること ・説明資料にルビを付け分かりやすく表現し、絵カードなどを活用すること ※これらは一例であり、本人と対話をしながら現場で柔軟に対応することが不可欠である。 また、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。 以上、合理的配慮についての整理を試みた。障害者本人などから意思の表明があった場合、基本的には建設的な対話を経て適当な変更・調整がなされなければならないと考える。 合理的配慮(合理的な変更・調整)を義務とするか努力義務にするかについて、行政・事業者は義務とし、県民に努力義務とするべきと考える。 なお、前回の会議終盤に避難準備情報が発令され、会議を中断することとなったため、前回議論を続けたいと考える。 2.相談体制について 資料4−1では、差別解消にかかる相談は「特定相談」とされている。一番の懸案は、この特定相談を担う機関とその配置である。骨子案では宮城県障害者権利擁護センターに相談業務を委託可能とされているが、これだけでは不十分である。 それは、権利擁護センター1ヶ所である場合に、実際の相談で相談者は仙台にまで出向く必要があり、一方相談員は現地へ聞き取りや調査に赴く必要がある。双方にとって機能的ではない。さらに、特に差別に関する相談は、即応性が求められる。対立の間に入り、調整することも求められる。 そうした人材を各圏域・地域に配置すべきと考える。 私案としては、県庁に窓口及び相談対応者を配置するとともに、特定相談に対応するために県内9ヶ所の保健福祉事務所・支所に1〜2人の職員を配置することだ。また、千葉県や京都府などのように「地域相談員」として、身体障害者相談員等にも特定相談あるいはそれに準ずる相談にかかる業務を担わせることが望ましいと考える。 3.助言・あっせんについて 調整委員会の権能として、説明・資料の提出を受けることに加え、事案についての調査を加えるべきである。また、委員の構成については奇数人での構成とし、過半数を障害当事者とすべきである。それは「私たち抜きに私たちのことを決めるな」の言葉に象徴されるように、障害者を社会から遠ざけてきたことが障害者差別の根源であることを考えれば、当事者が一定数参画すべきだからである。 さらに、障害者差別解消法が推奨している障害者差別解消支援地域協議会については、施策推進協議会が兼ねるかたちになっているが、県条例の施行により、調整委員会との連携もふくめてよりいっそうの協議検討が求められる。