手話言語条例 令和三年三月二十六日 宮城県条例第三十二号 目次 前文 第一章 総則(第一条―第八条) 第二章 手話の普及等(第九条―第十三条) 附則 手話は、音声言語とは異なる語彙及び文法体系を有し、物の名称や意思、概念等を手指の動き、表情等により視覚的に表現する言語である。ろう者が思考し、情報を取得し、意思疎通を図る手段として用いられる母語であり、日常生活や社会生活を営む上で重要なものとして、大切に育まれてきた。 しかしながら、過去には、ろう教育において読話と発声訓練を中心とする口話法による意思表示が推し進められ、手話の使用が制約された時代がある等、言語としての手話を学び、使用する環境が十分に整えられてこなかったことから、ろう者は多くの不便や偏見を受けて生活をしてきた。 このような状況の下、平成十八年に国際連合総会で採択された障害者の権利に関する条約において、言語には手話その他の非音声言語を含むことが明記され、我が国においても、平成二十三年に改正された障害者基本法において、言語に手話を含むことが規定されるとともに、平成二十六年には障害者の権利に関する条約が批准されたが、東日本大震災では、手話による情報伝達において、ろう者が非常に厳しい状況に置かれる等、いまだ手話に対する理解や普及は深まっているとは言い難い状況にある。 ここに、手話が言語であるとの認識の下、手話の普及等に関する施策を推進し、手話に対する県民一人一人の理解を深め、手話を広く普及し、ろう者が手話を使用して暮らしやすい地域社会を実現するため、この条例を制定する。     第一章 総則 (目的) 第一条 この条例は、言語としての手話の認識の普及、手話を習得する機会の確保その他の手話を使用しやすい環境の整備に関し、基本理念を定め、並びに県、県民及び事業者の責務等を明らかにするとともに、県が実施する手話に関する施策の基本となる事項を定めることにより、県民に手話及びろう者に対する理解を広め、並びにろう者が手話を使用しやすい環境をつくり、もってろう者が手話を使用して暮らしやすい地域社会の実現に寄与することを目的とする。 (定義) 第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 ろう者 聴覚障害者のうち、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者をいう。 二 手話の普及等 言語としての手話の認識の普及、手話を習得する機会の確保その他の手話を使用しやすい環境の整備をいう。 三 手話通訳者等 手話通訳者及び手話を使用することができる者をいう。 (基本理念) 第三条 手話の普及等は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。 一 手話が独自の体系を有する言語であって、ろう者が心豊かな社会生活を営むために大切に受け継いできた文化的所産であるとの認識の下に行うこと。 二 手話は、ろう者にとって、情報の取得、意思の表示及び他者との意思疎通を図る手段として必要な言語であるとの認識の下に行うこと。 三 ろう者が手話により意思疎通を行う権利を有し、当該権利は尊重されなければならないこと。 (県の責務) 第四条 県は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話の普及等に関する必要な施策を策定し、及び実施するものとする。 2 県は、前項の施策を策定し、及び実施するに当たっては、国、市町村、ろう者の団体(ろう者又はその家族その他の関係者で構成され、ろう者に対する支援を主な活動とする団体をいう。以下同じ。)その他の関係者と協力し、連携して取り組むものとする。 (県民の責務) 第五条 県民は、基本理念にのっとり、手話及びろう者に対する理解を深めるよう努めるものとする。  (事業者の責務) 第六条 事業者は、基本理念にのっとり、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力するとともに、ろう者が利用しやすいサービスを提供するよう努めるものとする。 (ろう者及びろう者の団体の役割) 第七条 ろう者は、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力するとともに、基本理念に対する県民の理解の促進及び手話の普及等に努めるものとする。 2 ろう者の団体は、基本理念及び手話が言語であることの重要性について県民の理解を深めるため、自主的に手話の普及等及び必要な啓発を行うとともに、手話の普及等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。 (手話通訳者等の役割) 第八条 手話通訳者等は、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力するとともに、手話に関する技術の向上、基本理念に対する県民の理解の促進及び手話の普及等に努めるものとする。 第二章 手話の普及等 (手話を学ぶ機会の確保) 第九条 県は、市町村、ろう者の団体その他の関係者と連携し、県民が手話を学ぶ機会の確保に努めるものとする。 (手話通訳者等の養成等) 第十条 県は、手話の普及等を図るため、手話通訳者等及びその指導者の養成、確保並びにこれらの者の手話に関する技術の向上を図るとともに、国、市町村、ろう者の団体その他の関係者と連携して、ろう者が手話通訳者等の派遣等による意思疎通の支援を受けられる体制の整備に努めるものとする。 (学校における手話の普及) 第十一条 県は、聴覚障害のある幼児、児童、生徒等(以下「ろう児等」という。)が在籍する学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校(大学及び高等専門学校を除く。)及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園をいう。以下同じ。)において、ろう児等が手話を学び、かつ、手話により学ぶことができるよう、教職員の手話の習得及び習得した手話に関する技術の向上のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 2 県は、ろう児等が在籍する学校において、この条例の目的及び手話に対する理解を深めるため、ろう児等及びその保護者に対し、手話に関する学習の機会の提供並びに教育に関する相談への対応及び支援に努めるものとする。 3 県は、この条例の目的及び手話に対する理解を深めるための学校における取組を支援するよう努めるものとする。 (手話に関する調査研究) 第十二条 県は、ろう者及び手話通訳者等が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究の推進及びその成果の普及に協力するものとする。 (財政上の措置) 第十三条 県は、手話の普及等に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 附 則 この条例は、令和三年四月一日から施行する。 (手話言語条例終わり)