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掲載日:2022年6月17日

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高校生ワークショップ活動の記録「地面とみどりのとびら(デッサン)」

高校生ワークショップ「地面とみどりのとびら(デッサン)」

  • 日時:2021年8月7日(土曜日)午前10時~午後3時
    •    2021年8月8日(日曜日)午前10時~午後4時
  • 場所:創作室2ほか、宮城県美術館の敷地内
  • 講師:杉戸 洋(画家・東京藝術大学准教授)
  • 参加者数:1日目15人、2日目14人

1日目 8月7日(土)

午前10時00分~午前12時00分

 画家の杉戸洋さんを講師に迎え、高校生対象のワークショップを行った。宮城県美術館では2015年に「杉戸洋展 天上の下地 prime and foundation」を開催している。杉戸さんの作品は、それが置かれる空間と独自のつながりを持ち、観る人の感覚を新鮮に開くものだ。ワークショップの始めに杉戸さんから、宮城での個展にあたっては、美術館の建築を何度もリサーチしたことや、もう1度ここで展覧会をするとしたら何をするかという視点で、このワークショップを考えているというお話があった。

 今回のワークショップは美術館の空間を使うものだ。杉戸さんと参加者で美術館を探検してまわり、場所ごとの特色を発見して、その中で気になった空間をとらえて描く。

 1日目はまず、創作室内において3分程度で、美術館を想像で描くことを試みた。朝、道路から館の敷地に入り、創作室まで歩いてきた道のりを思い出して、美術館がどんなところか説明できるように描く。参加者は一旦考えたあと、さらさらと鉛筆で描き始めた。アプローチから見た前庭と彫刻、列柱に囲まれた中庭、生い茂る木々に隠れる建物など、描いた場所は様々だった。

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 次にその絵を携えて、美術館の探検に出かけた。途中で、各自が描いた場所を実際に見た。創作室を出て、南側の公道まで階段を下り、敷地入口をスタート地点として、前庭から本館エントランスを経由し、北庭に通り抜けるルートで歩いた。

 探検のときには、地面の高低差、天井の高さなど、空間の変化を感じながらまわった。最初に、スタート地点から美術館を眺め、木々に隠れた静かな佇まいを確認した。絵を描くときと同じで、自分が立っている場所の高さを意識することは大切だ。高低差のある敷地に建物が建っていて、スタート地点では、美術館の1階の床は頭の高さより上にある。皆でそのことを覚えたまま前庭の階段を上がり、正面入口からエントランスホールを抜け、北庭に出た。北庭の階段を下り、北側から見た建物の印象はどうか、南側のスタート地点との高低差はどうか、感覚だけでわかるか考えてみた。案内看板の平面図も参考にするために見て、アリスの庭を抜け、創作室に戻った。

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 実際に館内外を歩いた上で、再度想像で美術館を描くことを試みた。図面でも良い。見てきた景色を思い出し、最初に想像で描いた場所をもう一度描いたり、北庭側から見た建物を描いたりした。

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 想像で2枚描いたあと、3つ目の制作で、今度は現場に行って描くことにした。正午まで、画板を携え、敷地内を歩き、外観で気になるところを1、2枚描く。記念館の入口の庇や、中庭の柱の根元など、想像で描いたときとは違う場所に目をつけた人も多かった。各自、杉戸さんと話しながら描き進めた。

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午後1時00分~午後3時00分

 午後のはじまりに、午前中の3つの制作をふりかえった。想像で描いたときは、手が紙の上から離れず、頭の中と手が連動しているように動いていたが、実際にものを見て描くと、頭の使い方が切り替わり、手の動きも慎重になったのではないか。どちらも美術館の印象をとらえようとしているが、自分にとってどちらがやりやすく、どちらがリアルか考えた。

 伝えたいことが変われば、描き方も変わってくる。その意味を意識し、さらにもう1枚描いた。今度は、スケールを意識して、空間をとらえるために描く。まず、自分の家の平面図を描いてから、同じ縮尺で、今いる部屋(創作室2)を重ね合わせて描く。創作室の大きさは、壁面の目透かし張りの板1枚の大きさを測り、枚数を数えるなどして計算する。壁の板1枚は1畳(中京間、182✕91cm)とほぼ同じ大きさなので、自宅の畳数が分かる部屋や1畳のトイレを尺度にして、創作室の中に自室が入るように描いた。

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 そうして2部屋を重ね合わせた上で、今いる創作室2と同じ大きさである、創作室1と、県民ギャラリー入口の吹き抜けを見に行く。空間の大きさを実感としてとらえた。吹き抜けでは、定規で外壁や床のタイルの大きさを測り、枚数を数えた。タイルを基準にして他のものの寸法がわかり、空間の大きさを把握することができた。

 吹き抜けでは、さらに、ポンプ室の緑色の扉にも注目した。杉戸さんは建物の中で唯一の緑がこの扉に使われていることに、個展のあとに気づいて、ずっと考えているそうだ。

 階段を上がり、中庭へ移動した。ここでは地面の一段下がった部分に注目し、高さが変化しているのと、仮に段差がなくフラットなのでは、世界の見え方がどう変わるか、皆で動いて体験してみた。

 ワークショップのタイトル、「地面とみどりのとびら」は、この時間に巡った中庭と緑の扉を指す。見ているだけではなく実際に歩いてみると色々なものが見えてきた。2日目は、異なる個性があるこの2つの空間から、気になる場所を探して描く。そのとき、例えば、緑の扉など実物の色を、想像で置き換えることや、常設の作品がない2つの空間に、自分の作品を展示することを考えてみると、描いていて目標ができると話した。創作室に戻り、各自1日で描いたスケッチを全て並べて、2日目の構想を膨らませた。

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2日目 8月8日(日)

午前10時00分~午前12時00分

 2日目は、1日目にしたことを応用し、それぞれ気になった空間をよく見て描く。建築家・前川國男の設計による美術館の建築空間の多くが、黄金比をもとに設計されている。空間には黄金比の長方形や正方形がよく現われるので、それを見つけるための簡単な道具を杉戸さんがつくって見せた。紙を、縦横の比率が黄金比の長方形になるように切って、短辺の長さの正方形になる箇所に折り目をつける。これを持って、建物に向けると、はまるところが出てくるので、プロポーションを意識しながら描くことができる。

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 各自歩いてまわり、描く場所を決めて、色鉛筆、アクリル、水彩などの画材で、色を使ったデッサンをした。空間が持っている性質をみつめ、とらえて描いた。黄金比の道具をつくったり、色画用紙やセロファンを風景にかざして見て、空間に付け加える色や形を想像したり、様々に試して描き進めた。

 参加者には、中庭の開口部から見える建物と空の複雑なトーンを追いかけて描く人や、中庭の集水マスと緑の扉が繋がっていて、そこから前庭のケヤキが生えてきたという発想をする人がいた。また、中庭のタイルを、正方形のものから長方形のものに貼り直すとしたら何枚いるか、図面に描き出してみる、インテリアデザイナー志望の人もいた。参加者それぞれの視点を持ち、各自、杉戸さんと話しながら制作を進めた。初日から雨が降ったりやんだりの天気だったが、昼頃には雨があがり晴れ間も出てきて、光の様子が変わってきた。

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午後1時00分~午後4時00分

 昼休憩を挟み、引き続き描き進めた。杉戸さんとの対話の中で、空間の中での人のスケールを意識したり、しっかり描くことで、空間が出てくるところはどこか、新たに空間に付け加えるものの色や質感をどう設定するかなど、考えながら制作した。

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 午後3時から創作室に集まり皆の作品を並べて見た。1人ずつ、2つの空間で自分が描いた場所と、そこから広げたイメージや制作中の実感について話した。参加者それぞれ独自の視点を持ち、多様な制作を展開した。

 ある参加者は、緑の扉の空間を、ボルダリングできる場として発想し、扉は登らないと入れないような高い位置に描き、地面のタイルを油彩でリズム良く表現した。別の参加者は、中庭の空間が人工的に見えたため、自然に覆われたらと想像し、天井が一部壊れて光がおりてきた様子を水彩で描いた。もしも中庭の空間で展示するなら何をするか考え、5つのアイデアスケッチを描いた参加者もいた。季節から発想を展開しようと思い、中庭に水をためて船を浮かべて釣りをしているところなど、イメージを広げた。

 杉戸さんはご自身の制作の実感についてのお話も交えながら、参加者1人1人の作品について、今後の制作につながるようなお話をされた。

 2日間、場所ごとの特色を発見し、想像力を働かせて、空間をよく見てとらえて描くことで、身を置いた空間が別の顔を持った世界に広がり、絵が変化するときがあったように見える。濃密な制作の時間の中で、建築の空間自体が活き活きと動き出す感じがあった。

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