あれコレ!みやぎ・・・ワインが人と地域をつなぐ「秋保ワイナリー」
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今回は、クリスマスには欠かせない「ワイン」について取材しました。
始めに
仙台市太白区秋保町のワイン醸造所「秋保ワイナリー」は、平成27年12月にオープンし、3年目を迎えました。敷地にはブドウ畑が広がり、ブドウの育成から収穫、醸造、瓶詰め作業までを行っています。ここで育ったブドウのワインは製造量が限られているため、秋保ワイナリーでしか味わうことのできない限定品です。
また、他の地域のブドウや県内産のリンゴを使ったお酒も手掛けています。ワイナリーは火曜日の定休日を除いて午前9時30分から午後5時まで営業しており、醸造の見学やワインの購入の他、イートインスペースでお茶も楽しめます。
今回は、秋保ワイナリーの代表取締役を務める毛利親房(もうりちかふさ)さんから、ワイナリーを始めたきっかけや、ワインの魅力、人と地域を結ぶワイナリーを目指すその思いについて、話を伺いました。
- 編集部
ワイナリーを始めたきっかけは。
- 毛利さん
平成26年の4月まで仙台の設計事務所に勤務し、東日本大震災からの産業振興や賑わい創出を目指し、さまざまな工夫を凝らした建築の提案をしていました。その一つとして、ワイナリーの建築を提案していましたが、リサーチする中で、ワイナリー事業により地域や産業の底上げに貢献できると確信したため、自分で始めることにしたんです。
- 編集部
設計とワインでは、仕事の内容がまったく違いますよね。
- 毛利さん
そうなんです。しかも、私は酒が弱く、コップ一杯で酔ってしまうほどです。
- 編集部
ワイナリーを作ろうとする場合は、もともとブドウを栽培している事業者が多いと思います。一からワイン造りを始めるのはなぜですか。
- 毛利さん
ワインは食との結び付きが強く、両者のマリアージュ(調和)を通して宮城の食をPRすることで震災で被災した宮城を元気にしたかったんです。いずれは、そのワインの生まれた土地を散策しながら食や文化を楽しむ、ワインツーリズムができる環境を作れればと思っています。とはいえ、宮城県のぶどうの生産量は全国で44位です。今のところ県内にはブドウワインの醸造所がここしかありません。県内でブドウ栽培や醸造の担い手を育成する必要があるので、月に1回のワイナリー育成セミナーを県の補助を受け行っています。
- 編集部
ワイナリーがオープンするまでに苦労もあったのではないでしょうか。
- 毛利さん
初めは、復興を応援したいという気持ちから、沿岸部でワイナリーを始めようと考えていました。しかし、うまく進まず諦めかけていたんです。
そんなとき、カキの漁師さんと話す機会がありました。震災の影響で止めていたカキの漁を再開したものの、販路が途絶えてしまったそうです。私が、「県内でワインを作りたいんだ。実現したらカキとワインがコラボした商品を一緒にPRしよう」と話したところ、こんなにワクワクしたのは久しぶりだ、と言ってくれて、互いに励まし合いました。それで、ワイナリーの夢を諦められなくなりました。
- 編集部
なぜ、「秋保」を選んだのですか。
- 毛利さん
いろいろな失敗を踏まえ、まずはブドウを育てる場所から探そうと思い、自分の暮らしている仙台市内に目を向けました。秋保はマラソンや自転車でよく通っていたので、土地勘がありましたし、知り合いにも相談したところ、すぐに紹介してくれたんです。この場所を見てすぐにブドウ畑と醸造所のレイアウトのイメージが涌いてきました。運営資金や土地の権利などさまざまな調整が必要でしたが、たくさんの応援があり、こうしてワイナリーを始めることができました。
- 編集部
秋保ワイナリーならではの醸造の工夫はありますか。
- 毛利さん
ここでは、陰干しワインの技法を取り入れています。日本でブドウを栽培する場合、収穫の時期が秋雨の季節と重なるため、湿気や日照不足によりブドウの糖度が上がりにくくなってしまいます。そうするとワインは淡い味わいになりがちです。そこで、北イタリアのヴァルポリチェッラ・クラシコ地区で陰干しの技法を取り入れました。秋保の涼風に育まれながら陰干しされたブドウは、糖分が凝縮され、乾燥果実のような独特の風味がワインに付きます。秋保ワイナリーならではの、生ブドウでは決して得ることのできない陰干しワインの特長を味わってほしいです。
【ワインの瓶詰め作業】
- 編集部
醸造家の腕の差はワインの味とどう関わるのでしょうか。
- 毛利さん
おいしいワインの大前提は、ブドウの出来です。その上で、醸造家がブドウの良さをいかに引き出すか、ここで差が出ると思います。例えば、香りは醸造過程で抜けていくものですが、いかにブドウの香りを損なうことなくワインにしていくか、ここが醸造家の腕の見せどころです。
- 編集部
ここのブドウを使ったワインは、1年間にどのくらい作りますか。
- 毛利さん
販売は春に行いますが、2018年春はおそらく1,500本程度の出来でしょう。そのうち500本はサポーターにプレゼントしますので、残りは1,000本。これをボトルで販売するとすぐになくなってしまいますので、生産量が増えるまでは、ワイナリーでグラス提供での販売のみにしています。
ブドウの木は、成長するに従って味がどんどん良いものになっていきます。それを毎年たくさんの人にここで味わっていただき、昨年よりも味が良くなったと、感じてほしいです。新しいワイナリーならではの経験だと思いますので。
- 編集部
ワインツーリズムの他に具体的なビジョンはありますか。
- 毛利さん
ぜひ地域おこしに取り組みたいと考えています。例えば、秋保と山形県を結ぶ自転車のサイクリングコースを作り、利用客が地域と触れ合いながら観光できたら楽しいですよね。サイクリングは海外で注目を集めており、日本では四国のしまなみ海道で成功しているので、ぜひやってみたいです。「秋保ツーリズムファクトリー」というまちおこしの事業会社団体も立ち上げましたので、ビジョンを少しずつ形にしたいと思います。
- 編集部
ワインツーリズムにサイクリングを組み合わせたらとても魅力的なプロジェクトになりますね。
- 毛利さん
気候風土と人の営み(テロワール)と、食とお酒のマッチング(マリアージュ)を掛け合わせた「テロワージュ」という言葉を私は作りました。これは各産地に最高のマリアージュとストーリーが存在することを意味します。東北の食文化を紹介するウェブサイトを立ち上げ、ワイナリーと地域を巡る旅行プランを提供することで、東北にあるたくさんのテロワージュの存在を発信し、多くの外国人観光客が宮城を訪れるきっかけとなればと考えています。
- 編集部
設計事務所を退職してワイナリーを始めるだけで、ものすごいエネルギーが必要だと思います。加えてまちづくりの取り組みやサイクリングとのコラボなど幅広く取り組もうとする、そのエネルギーはどこから涌いてくるのでしょう。
- 毛利さん
楽しいんですよ。困っている人を助けるのが性分なんです。東北が元気になれば自分も元気になる。自分ひとりでできることは限られていますが、周りの支えのおかげで、少しずつ前に進んでいきます。自分としてはエネルギーを消費している感覚はありません。漁師さんや地域の人が集まっておいしい料理とワイン、そして会話を楽しむ。今までこんな楽しいことは無かった。他の方にもその楽しさを感じてもらいたいという思いから、ワインで地域をつなげていくんです。
編集部から
取材をして、大変なプロジェクトにもかかわらず、それを「楽しい」と笑顔で語る毛利さん。揺るがない信念が伝わってきました。「困っている人を元気にしたい」、シンプルに見えて実はとても難しい目標です。それを躊躇せずに前に進み続けようとする姿がとても魅力的でした。そして、生き生きと未来を語る毛利さんの話は、カキの漁師さんのように聞き手を元気づけるパワーがあると感じました。
今はまだ、生産量が限定されるため、秋保ワイナリーのブドウを使ったワインは、ワイナリーでしか味わうことができません。ぜひ、ワイナリーを訪れて、その年ならではの味を堪能しましょう。
秋保ワイナリーで販売しているワインやクッキーを読者プレゼントします。詳細はプレゼントコーナーをご覧ください。
【プレゼント写真】